株式会社メルカリ ソフトウェアエンジニア 野上和加奈さん

株式会社メルカリ ソフトウェアエンジニア 野上和加奈さんにお話を伺いました。

STEMに興味をもつようになったきっかけは何ですか?

正直、はっきりとしたきっかけというのはないです。高校の文理選択では、二人の姉も理系でしたし、自分自身も数学が好きだったので自然の流れで理系に進みました。大学進学の際も、文系より理系の方がなんとなく興味があるというだけで、具体的に自分がやりたいことは決まっていなかったので、進学後に学科を決められる大学を選びました。大学の教養課程で様々な講義を受けてみた結果、座学よりも実験など手を動かす講義のほうが好きだと気がついたため、専門課程ではできるだけ実験の多そうな学科に進もうと決めました。実験の多そうな学科を探してみると、電気電子工学科が週に4日実験や工場見学をやっていることを発見。電気電子工学科に進みました。ところがいざ進学してみると、電子回路、電磁気、電子物性、、とにかく電気に関わる講義が全くわからず、これはまずい!ということに。その中で唯一、興味が持てたのがプログラミングでした。そこで、情報系の研究室に進みソフトウェアエンジニアを目指すようになりました。


テクノロジーの道に進むにあたり、影響受けた方がいれば教えてください

Parisa Tabrizさん(https://en.wikipedia.org/wiki/Parisa_Tabriz)です。大学4年の終わりごろたまたま、大学で彼女の講演を聞く機会がありました。その頃、私は男性が大多数を占める環境の中での学校生活やソフトウェアエンジニアインターンを経験し、マイノリティーとしての難しさを感じていました。そうした環境に嫌気が差し、将来はソフトウェアエンジニアではなく、もう少し女性の多いような職につこうと考え始めていました。

講演の質疑応答の際、一人の女子学生から「自分は例えば企業でソフトウェアエンジニアとしてアルバイトをしていても、女性というだけでソフトウェアエンジニアではなく、デザイナー等だと間違えられ、そのたびに自信を失っている。そのような経験はありますか?また、それをどうやって乗り越えましたか?」という質問が上がりました。私は、どうせ優秀な人にありがちな「私はエンジニアリングが好きでやっているから、そんなこと気にしたことがない」とか、「その分技術力で認めてもらえるように頑張って乗り越えた」とかそういう答えが返ってくるのだろうと勝手に予想していましたが、実際の回答は意外なものでした。

「私はそれを乗り越えることはできていないけれど、私がここにいることできっと少しづつ変わっていくと思う。そして、そうすることできっと次の世代の女性たちが私のことを誇りに思うはずだ。」

その回答を聞いたとき、肩の荷が降りた気がしました。それまで、無意識のうちに、自分がソフトウェアエンジニアになるには、マイノリティーであることと戦い、それを乗り越えなくてはいけないと思い込んでいました。技術力はトップではなくてはならない、男性多数のなかでも負けない強さを持たなくてはならない、他の女性たちの見本にならなくてはいけないそうでなければソフトウェアエンジニアにはなれないとなんとなく思ってしまっていました。しかし彼女の回答を聞いて、マイノリティーであることを乗り越える必要は全く無いし、自分が強くて優秀なトップのエンジニアになる必要もない。そうでなくても、ただ私がありのままソフトウェアエンジニアとしているだけで、IT分野のジェンダーギャップの解消にほんの少しだけど貢献できる。ただ、私は等身大でそこにいればいいんんだと思えるようになりました。その結果、ソフトウェアエンジニアになる決心が付き今、こうしてソフトウェアエンジニアになることができました。


現在のお仕事に至った道のりを教えていただけますか

大学では掛け軸の毛筆文字の認識を研究していました。というのも、大学4年の9月から12月までフルタイムのインターンに参加するという暴挙(笑)に出た結果、テーマも決まっていない状態から卒業論文を約2ヶ月で完成させなくてはならなくなりました。そこで、インターンでは画像処理のプロジェクトをやっていたこと、指導教員が茶道をやっていたことからこれなら何とかなりそうだということでこのテーマに決まりました。そこで初めて機械学習というものに触れました。機械学習とは大雑把に言うと、大量のデータを元にコンピューターにパターンを学習させ、物事を予想したり分類したりする手法です。掛け軸の毛筆文字を機械学習によって認識させてみると、毛筆文字に慣れてない人間には読めないような文字であってもコンピューターが読めることに感動を覚えました。機械学習を試すうちに、機械学習を動かす側にも興味が出てきました。

そこで大学院では、計算基盤の研究室に進み、次世代ハードウェア向けの軽量機械学習モデルを研究しました。産業総合技術研究所でリサーチアシスタントをさせてもらったり、学会発表のために海外に行ったりして楽しい研究生活を過ごしました。そのまま博士課程に進むことも考えましたが、研究の中でも一番楽しいと感じたのは、思いついた手法を実装しているときで、それだったら、企業で沢山の人に使ってもらうサービスを作ったほうが楽しいのではないかと考え就職することにしました。就職先を探す際には、自社でサービスを作っている会社であること、多くの人が使っているサービスであることを軸に会社を探しました。また、ソフトウェアエンジニアを目指す次世代の女性たちをサポートする取り組みをしたいと考えていたので、そういうことをさせてもらえそうかも基準に現在の会社を選びました。

その当時、ソフトウェアエンジニアの分類として、アプリを作る人、ウェブページを作る人、その他くらいのイメージしかなかったので、自分が具体的に何のソフトウェアエンジニアになりたいのかわかっていませんでしたが、人事やエンジニアの方との面談を重ねる中で、「MLOps」というものを知りました。そしてどうやらそれは機械学習を動かすシステムのことで、機械学習とその基盤に対する両方の知識が必要らしい、私にぴったりじゃないか!ということで、MLOpsエンジニアとして、機械学習チームに配属されました。


現在のお仕事の内容を聞かせてください。日々のお仕事の時間割りを教えてください

現在は完全に在宅で仕事をしています。仕事の開始時間終了時間は決まっていないので、用事がある日は昼から働いたり、逆に朝早くから働いて、早めに仕事を切り上げたりしています。普段は9時位から仕事を開始して18時ごろに仕事を終えます。エンジニアは手を動かすのが仕事なのでミーティングは最小限。昼前に毎日、チームのみんなで取り組んでるタスクの共有ミーティングをしていますが、それ以外ミーティングがなにもない日もあります。今動いているシステムに問題があれば修復し、日々改善しています。また、新しいシステムの作成もします。エンジニアになってみて気がついたことは、意外とプログラムを書く以外の仕事が多いということ。新しいシステムを作る前には、どのような設計にするか資料を作成しますし、プログラムを作ったあとにはそのプログラムの説明書のようなものを作成します。システムの問題を修復するときには、まずどこが悪いのか、そしてそれをどう修復するか調べたり考えたりすることに時間を費やします。実際の修復自体はたった一行のコードの変更だけなんてこともよくあります。

エンジニアの仕事だけではなく、ジェンダーギャップの改善に取り組む社内コミュニティーのリードもしています。コンピュータサイエンスを学ぶ女子大学生を支援するプロジェクトを立ち上げたり、ジェンダーに関わる問題の理解を深めるための社内イベントを企画したりしています。


仕事にやりがいを感じるのはどんなときでしょうか

エンジニアとしては、自分の作ったシステムが実際に使われて動いているのをみたときや、自分のした修正によって不具合がが改善したり性能が向上したときです。

コミュニティのリードとしては、支援した女子大学生が実際にソフトウェアエンジニアとして就職したときにやりがいを感じます。


テクノロジーの道を進んでいる女性として苦労したところはどのようなことですか。

身近なロールモデルやアンチロールモデルが少ないことです。”女性エンジニアのロールモデル”としてイベントなどに登壇されるような人はどなたも優秀で素晴らしい方ばかりでかえって、「自分はああはなれそうもない」と自信をなくしてしまうこともあります。もっと身近に沢山女性エンジニアがいれば、現実的に「あの人みたいになりたい」「あの人でもああなれるなら私にもできるはず」「あの人のようにはなりたくないからこうしよう」など様々なモデルケースを知ることができます。今の会社でも、自分の少し上くらいまでの女性エンジニアしか周りにいないので、10年後、20年後もエンジニアとして働いている自分の姿をあまり想像できずにいます。もっと女性エンジニアが増えると嬉しいです。


将来理系の道に進みたい、そしてソフトウェアエンジニアの道を考えている女子小中高生へのアドバイスをいただけますか

将来理系の道に進みたい、ソフトウェアエンジニアになりたいと思うのであれば迷わずその道に進めばいいと思います。まだまだ男性は理系、女性は文系だとか、ソフトウェアエンジニアは男性の職業だとかいう偏見はたくさんあります。でも、そういう偏見に惑わされて悩んで諦めてしまうのはもったいないです。女性が理系に進むこともソフトウェアエンジニアになることも「普通」のことです。なので「普通」の女性が理系に進んでソフトウェアエンジニアになることができるし、そもそも理系に進みたい、ソフトウェアエンジニアになりたいと思っている時点で十分適正があると思います。「普通」のわたしが保証します!笑

その一方で、ITの業界はまだまだ男性が大多数の環境です。マイノリティーであるがゆえに嫌な思いや難しさを感じることがきっとあると思います。そういうときは気軽に周りの人を頼ってください。女性エンジニアは少ないですが、あなたは一人ではありません。私で良ければいつでも相談に乗ります(^^)

コメントを残す